分子科学研究所将来計画(案)(法人第一期6年を考えて)
分子科学研究所が創設30年を迎える2004年に,大学共同利用機関は国立大学と同様に法人化されることになる。分 子科学研究所を含めた岡崎国立共同研究機構の3研究所は,核融合科学研究所および国立天文台と連携して「自然科 学研究機構法人」を構成し,この段階で,岡崎国立共同研究機構は解消される。自然科学研究機構は,自然科学の分 野の異なる5研究所が,互いの連携を保持することによって,科学的な視野を広げ,ますます各分野の先端的研究拠 点,大学共同利用機関として発展することのみならず,機構内外の学術研究機関と協力して,今後の我が国の学術研 究連携を自らの手で作り上げる責任を持つことを目的としている。機構が発足する2004年以降は,機構の研究所ある いは研究者が中核となって,機構内外のさまざまな学術研究連携の試みが,研究者を主体とした提案として議論され, 実施される。科学技術のめざましい発展により,世界的にも,科学技術を利用した豊かな社会作りを目指す動きが顕 著である。その際,技術の応用(テクノロジー指向)を主眼とする政策が取られがちであるが,学術研究(S cience and A rt)が21世紀の物質および心の豊かさを支える重要な役割をもつことを勘案すると,自然科学研究機構が,学術研究 を積極的に展開する機構としてなすべき役割と責務は大きなものがある。法人化が,行政の効率化を図るという目的 であるという観点から,法人化に対し受け身の立場になりがちである。しかし,21世紀の世界が,物質社会としての 豊かさだけでは成り立ちえない現状を考えるならば,先端研究を担う研究者が,新しい研究分野を開拓し,新しい科 学の概念を創成する努力をすることが,学術研究を担う研究者としての責務である。
分子を単位とした物質科学は,化学,物理のみならず広汎な分野の基盤として,今後ますますその重要度は高まり, 広義の物質科学としての分子科学の研究をどのように展開するかが,分子科学を取り巻くさまざまな学問分野に大き く影響する。この意味から,分子科学研究所が,高い理念と責任感を持って今後の研究計画を設計することが求めら れている。ここ数年来,分子科学研究所は,物質創製,光分子科学および化学反応動力学を柱とした広義の物質科学 研究を行う共同利用研究機関であることを謳ってきた。法人化を控えた現在,今後の展望をまじえて,具体的な将来 計画を提案する。
(1)国際研究推進
分子科学研究のターゲットが,ナノ物質科学に向かっている現況であり,分子科学研究所はそのような分野を強力 に展開するとともに,次世代の分子科学研究を切り開く責務を担っている。ポストナノサイエンスと表現される次世 代の研究では,単に物質科学の静的な物性を研究するのではなく,一分子素子での電気伝導などに象徴されるナノ領 域でのダイナミックな量子効果,極短時間での変化をも含む研究が展開されるべきである。加えて,少数多体系特有 のゆらぎなどの概念をも取り入れなければならない。このような例にも象徴されるように,広義の物質科学としての 分子科学は,物質創製,反応動力学,光科学などが融合し,さらに生命科学,情報科学などを取り込んだ分野へと変 化する部分を多く含むものである。また,このような異分野の協力体制とともに,コンピューターネットワークなど の進歩により,科学研究に,国籍という障壁はなくなる一方である。このことを考慮すると,これからの広義の物質 科学の拠点としての分子科学研究所は,国内のみならず世界諸外国との連携拠点となるべきである。このために,わ れわれは次世代の学術研究を目指すアジアに視野を広げた国際共同研究ネットワークを提唱する。
5.将来計画及び運営方針
(2)計算分子科学研究系の新設
近年,従来の計算とは比較にならないような巨大な科学技術計算に基づいたサイエンスの新しい分野が世界的に芽 生えつつあり,計算科学の新たな挑戦的領域を形成しつつある。このような新しい流れに対して将来を見通したとき, 最も重要な基礎学術分野のひとつとなるナノサイエンス分野において我が国が遅れをとることは絶対に許されない。こ こにおいて,ナノサイエンスは言うに及ばずその基盤となる分子科学分野において,巨大計算に基づいたシミュレー ション研究に迅速かつ持続的に取り組むべき研究組織を整備し,世界の潮流に先鞭をつけるべく対応して行くことが 緊急に求められている。
その中で,ナノ物質系に対して新たに研究を展開して行くためには,計算分子科学の根幹を成す分子動力学法や電 子状態理論をさらに高度化していくことが重要な課題となる。このような研究においては,ナノ物質系を記述する新 たな方法論開発が必須となるのに加えて,巨大計算を目的とした超並列演算やグリッド環境を利用した高度な計算技 術が要求され,解析的方法や小規模計算に基づいた従来の理論研究とは全く異なった研究分野を形成している。米国 における B lue Gene 計画や,特にわが国 NA R E GI(超高速コンピュータ網形成)プロジェクトはこの方向に沿ったもの である。
以上のことから,中期目標,中期計画に示しているように,巨大計算に基づいた計算分子科学に対する我が国の中 核的研究推進体制を分子科学研究所に確立する。このため,計算機運用を中心とした計算科学研究センターの従来の 機能は維持しながら,巨大計算による分子科学の新機軸の展開を研究の柱とした計算分子科学研究系を新設し,平成 14年度設置の分子スケールナノサイエンスセンターとも連携をとりながら,既設の理論研究系(理論分子科学研究系
と改名する)との協力の下に,理論とシミュレーションの強力な研究遂行体制を組織する。
(3)レーザー分子科学研究センターの発足
21世紀は光の時代と考えられている。その中でレーザーは中心的役割を果たすツールである。分子科学研究所は発 足以来レーザーを用いた分子科学研究の世界的な拠点としての役割を果たしてきた。法人化を機会として,本研究所 にある分子制御レーザー開発研究センターを改組し,電子構造研究系,分子構造研究系などからの参加により,21世 紀の分子科学のレーザー科学への貢献を果たす組織として,本組織内外の協力体制を確立し,新たなレーザー分子科 学分野を開拓する。
(4)法人化にともなう新規研究事業
法人化にともない,分子科学研究所の研究グループが互いに連携しつつ,分子科学研究の先端を遂行するために,以 下の特別推進テーマを法人第一期6年間で実施する。
1. 分子素子開発のための新規ナノ分子システムの開発と構造・機能 2. 分子システムの動的素過程の先端光計測と光制御
3. 環境調和型次世代エネルギー・物質変換プロセスの創出 4. 機能性分子凝集系の設計・開発とその物性
テーマ1は,分子科学研究所が創立以来取り組んできた分子エレクトロニクスの構築を目指したものであり,ナノ サイエンスセンターを中心とした研究協力体制の下で遂行される。
テーマ2は,光科学と化学反応動力学を柱とする研究であり,現在の極端紫外光実験施設および分子制御レーザー 開発研究センターの装置群を使った共同研究体制で行われる。世界に類を見ない分子科学固有の極端紫外光施設,高
性能の各種レーザー,分子線などを用い,理論系との協力体制によって,分子構造,電子構造といった静的局面のみ ならず,動的局面をも明らかにし,化学反応さらには,分子素子開発など,分子科学全体に係わる重要な研究事項の 基礎を構築する。
テーマ3は,分子スケールナノサイエンスセンター,錯体化学実験施設の装置群を使った共同研究であり,統合バ イオサイエンスセンターとも連携しつつ,ソフトマテリアルとしての分子,分子集合体を,溶液を含む系のなかで制 御し,環境科学,ナノバイオロジーなどとの境界領域を超えた新規な化学を発展させようとするものである。
テーマ4は,分子集合体の物性を,1分子レベルで制御しつつ,新規な物性をもつマクロな物質を作りあげる,井 口名誉教授以来の分子固体化学の中心テーマであり,本研究所が今後もその先端的研究を開発する責務をもつもので, 分子スケールナノサイエンスセンターと協力しつつ展開を図るプロジェクトである。
(5)法人化に伴う施設整備
法人として,「労働安全衛生法」が適用される。さまざまな安全衛生面をより確保する立場から,建物および安全衛 生設備に配慮が必要である。具体的にはB地区の実験棟 8,800 m
2
に耐震補強整備を行う。B,E地区の研究棟に不法 侵入防止,安全衛生対策などの抜本的な設備改善を行う。これらは,日本化学会が,重要な施策として国立大学協会 に提言している事項でもあり,今後の化学研究を行うに必須なものとして,法人化以前に対策を講じることが求めら れている。
(6)組織再編成とB,E地区への展開
分子科学研究所は,物質創製,光分子科学および化学反応ダイナミックスを3つの研究の柱としている。この観点 から研究系を再編成することが必要であり,研究総主幹の新設を含め,次世代の分子科学研究を見据えた組織編成を, 法人化に伴って遂行する。
E地区は主として分子科学の新領域開拓における分野融合研究,特に生命分子科学,ナノサイエンスを含む物質科 学の先端開発を担う。分子スケールナノサイエンスセンターの分子素子およびナノ触媒部門はE地区に設置し,統合 バイオサイエンスセンターとの連携の下に研究を発展させる。分子スケールナノサイエンスセンターのより高度な発 展をめざすための研究棟の充実が望まれる。高磁場核磁気共鳴装置など先端的分光・分析装置の全国共同利用による 先端的分子科学研究を推進する。一方,分子スケールナノサイエンスセンターの光計測部門は,B地区において光科 学および化学反応ダイナミックス分野との連携を保ちつつレーザーおよび放射光を用い,ポストナノサイエンスの新 分野開拓へ挑戦する。また同時に,すでに教授が配置されることが決定されている極端紫外光実験施設とともに,光 科学および化学反応ダイナミックスと深く関わりあい,さらにE地区の物質創製グループとの協力関係をもつ。
(7)放射光分子科学研究の推進
極端紫外光実験施設は,平成14年度に高度化が実施され,分子科学を中心にした放射光科学の世界的な拠点として 国際規模での研究が推進される。このような状況で,新たに2研究テーマを増加させ,運転時間を延長し,先導的な 放射光分子科学研究と汎用的な基礎物性評価研究の両面で成果をあげることが必要である。加速器をベースとした光 源開発研究も光分子科学の今後の展開にとって重要である。法人化に際しては極端紫外光研究施設と名称変更し,研 究面をより重視した組織に再編する。
(8)運営体制の補強
法人化後の機構組織は,現在の岡崎機構の組織と違って,東京地区に置かれ,また,機構長と理事を中心としたも のになる。それに伴い,機構の運営に関わるという重要な役目が所長に加わるため,現在,研究面で分子科学研究所 を主導していくという所長の役目を研究所側で補う必要がある。そのため,研究所の教授が併任するポストとして研 究総主幹を設置し,今後も分子科学研究所における研究活動を実り多いものにしていく。
(9)その他
分子科学研究所は流動部門という独自な共同利用研究システムを活用し,国立大学等の教官との連携を図り,成果 をあげてきた。法人化にともない,人事交流の重要性が増す方向にある現況において,本研究所の流動研究制度は,研 究経費の配慮まで含め,前向きな方向で推進されるべきである。
統合バイオサイエンスセンターが岡崎の3研究所の共通研究施設として発足し3年目を迎える。本年度は分子科学 研究所の物質創製に関連する部門がE地区に移り,統合バイオサイエンスセンターとの協力体制が分子科学研究所と して益々重要なものとなる。
将来への取り組みについては過去の分子研リポートにある通りであるが,特に,法人化1年前である平成15年は, UV S OR 施設で最初の放射光が観測されて20年目にあたり,新たな10年,20年に踏み出す記念すべき年に位置づけら れる。幸いにも,その年に,高度化された光源加速器の利用が始まる。施設では高度化された光源加速器(放射光リ ング)を UV S OR -II リングと呼ぶことに決めた。
高度化後,光源加速器は性能(輝度)が飛躍的に向上し,高輝度な挿入光源を中心としたものに生まれ変わる。そ れを生かすかどうかは,光源に連結する分光器,測定器を全体として最適化できるかどうかにかかっている。成功す れば,世界の最新鋭の放射光施設の設備と同等以上のものになりうる。すでに世界水準の最先端の挿入光源ビームラ インの建設も一部に始まっている。ただし,現在の科学技術行政の中では予算的裏付けは基本的には外部資金が中心 になる。法人化に向けて,組織的にも UV S OR 施設としての特徴を出して行かねばならない。
現在,積み残されている概算要求事項は以下のとおりである。
(1) 3000時間の運転時間の確保
平成10年度より運転経費が 15%カットされ,運転時間も年3000時間から 15% 前後,削減されている。高度化によ り施設のビームラインの競争力が格段に強化されるため,少なくとも運転時間を元に戻して,競争力のある内に集中 的に成果を挙げる。
(2) 研究分野の拡大
20本のビームラインがあるにも関わらず,予算的に認められている実験テーマは6研究分野9実験テーマだけであ る。高度化によって放射光分子科学に新たな展開が可能になったため,施設の特徴を生かした7番目の研究分野とし て顕微分光実験を掲げ,2実験テーマを追加して,成果を挙げていく。
また,法人化に向けて,以下のような検討が進んでいる。
極端紫外光実験施設から極端紫外光研究施設に名称変更し,施設として研究面を強化する。具体的には,現在,分 子スケールナノサイエンスセンターに配分されている高輝度放射光源開発を担当する教授ポストをUV SOR 施設に移し, 光源系で光源加速器開発研究部,電子ビーム制御研究部の2研究部体制(教授1+助手1及び助教授1+助手1)に するとともに,観測系も光物性測定器開発研究部と光化学測定器開発研究部の2研究部(助教授1+助手1が2グルー プ)に,客員助教授を配置する放射光分光器開発研究部を加えた体制とする。また,UV S OR 施設の運営委員会で議論 された結果,ビームラインの高度化の方策として,老朽化して廃止する方向にあるビームラインを除き,成熟したビー ムラインと高度化によって先端的で高度な研究が可能なビームライン(主に挿入光源ライン)に分け,後者について は研究内容の厳格な評価に基づいてビームタイムの配分をする必要があるとの方向性が出された。今後,利用研究者 との議論や施設評価結果に基づき,重点化ビームラインを定め,順次,ビームラインの高度化を行っていく予定であ る。また,祝日に左右されず火曜日から金曜日は必ず研究できるような運転形態にするなど,利用者が研究成果を集 中的に挙げられるための方策を立てる。
5-1 極端紫外光実験施設の将来計画
平成14年4月よりナノスケールの分子構造体科学の研究を推進する分子スケールナノサイエンスセンターが発足し た。これは,以前の分子物質開発研究センター(旧物質センターと略)の助教授と分子集団研究系,電子構造研究系, および錯体化学実験施設からの教授・助教授が合流し,新たに認められた教授のポジションを大部門に配置すること によって,系やセンターの枠を越えた新しい組織として誕生した。陣容がまだ固まっていないこともあり,茅幸二所 長がセンター長の事務取扱として着任し,研究系およびセンターの教授が運営を助ける体制を取っている。
本センターは,3つの大部門と2つの流動部門から構成される。大部門における教授・助教授の数は3名以上であ り,研究計画に応じて流動的な構成が可能である。「分子金属素子・分子エレクトロニクス研究部門」には,有機合成 の手法を活かしたナノデバイスの研究を行われる小川琢治教授が平成15年2月より着任され,分子集団動力学部門か ら有機半導体素子やナノリソグラフィー研究の夛田博一助教授が,旧物質センターから分子素子材料開発研究の鈴木 敏泰助教授が参加している。「ナノ触媒・生命分子素子研究部門」には,錯体化学実験施設から錯体化学やナノ触媒研 究の魚住泰広教授が11月より着任し,旧物質センターから分子組織体合成研究の永田央助教授が配置された。またも う一人の助教授は15年度着任予定となっている。「ナノ光計測研究部門」の教授は15年度の春にも着任される予定であ り,表面のナノ構造の計測開発の研究を展開されるであろう。この部門には電子構造研究系からナノクラスター粒子 研究の佃達哉助教授が加わるとともにシンクロトロン放射光光源研究の専任教授が配置される予定である。また,流 動研究部門である「界面分子科学研究部門」では,山梨大学から触媒表面科学の小宮山政晴教授が,千葉大学から放 射光科学の奥平幸司助教授が着任されているが,平成15年度からは新しいメンバーと交代される。また,「分子クラス ター研究部門」では広島大学から谷本能文教授が強磁場中での特異な構造体発生の研究を,静岡大学からの石田俊正 教授が分子包接体の理論的研究を行っている。
平成15年の秋には E 地区にナノサイエンスセンター棟が竣工する予定であり,いよいよ本格的な活動が期待される。
5-2 分子スケールナノサイエンスセンター
5-3-1 現在の計算機システムと運用
2003年2月現在の計算機システムの概要を下図に示す。図の左側は2000年3月に導入されたスーパーコンピュータ システムであり,本年度に更新され E 地区に設置された汎用高速演算システムは右側に示している。
スーパーコンピュータシステムは,富士通製 V PP5000 と S GI 製 Origin から構成される。V PP5000 は 1 C PU 当たりの 最高演算性能が 9.6 Gflops のベクトル演算装置30台から構成され,各 C PU に 8 ∼ 16 GB の主記憶装置を持つベクトル 並列計算機である。一方,S GI Origin は 1 C PU 当たりの最高演算性能が 0.6 ∼ 0.8 Gflops のスカラ演算装置 320 C PU か ら構成され,C PU 当たり 1 GB の主記憶をそれぞれの C PU から共有メモリとしてアクセスが可能な分散共有方式の超 並列計算機である。V PP5000 では高速なベクトル演算能力を活かした大型ジョブの逐次演算処理はもちろん,例えば 8台以上のベクトル演算装置を使った大規模なベクトル並列演算が可能となる。Origin2800/3800はNon Uniform Memory A ccess(NUMA )方式と呼ばれる論理的な共有メモリ機構を有する。NUMA は主記憶装置が各 C PU に分散して配置さ れているため C PU から主記憶へのアクセス速度が非等価ではあるが,利用者プログラムから大容量のメモリを容易に
SGI SGI2800,Origin3800
cco2k1 32CPU cco3k1 128CPU cco2k2 32CPU
cco2k31 128CPU
日本電気
TX-7 64CPU
File Server
Frontend ccfep1 ccfep2
富士通 VPP5000 30PE 日本電気 SX-7 32CPU
汎用高速演算システム
スーパーコンピュータシステム
機構ネットワーク CISCO Catalyst
高速シミュレーション 日立 SR8000 6CPU
5-3 計算科学研究センターの現状と将来構想
図1 システム構成図(平成15年2月1日現在)
利用することが出来,大規模な並列ジョブの実行が可能となる。
一方,今年度に導入された汎用高速演算システムは,NE C 製 S X -7 で構成される主システムと T X -7 で構成される副 システムとから成る。NE C S X -7 は 1 C PU あたり 8.8 Gflops の最高演算能力を持ち,256 GB の共有メモリに結合され た 32 C PU の演算装置から構成され,総合演算性能 282.5 Gflops の共有メモリ型ベクトル計算機である。また,T X -7 は 4 GB のメモリを持ち最大 4 Gflops の演算性能を有する C PU を32台搭載したノードを基本単位として構成されている。 本システムは2ノードから成り,合わせて 64 C PU,256 GB ,256 Gflops の総合性能を有する分散メモリ型スカラー計 算機である。このうち主システムは高速演算,大容量メモリを活用した大規模分子科学計算に用いられ,また副シス テムは分子科学計算に加え,ホモロジー検索を主としたバイオサイエンス分野での利用に供される。
本計算科学研究センターは,今年度も国内約150グループ,600名にも及ぶ分子科学者に対して共同利用施設として 広くサービスを提供し,分子科学分野における計算科学の中核的拠点センターとしての役割を果たしてきている。一 方で,世界の最先端研究をリードしこれを推進していくために,各研究室における小規模のワークステーションクラ スタはもちろんのこと,他の計算機センターでも不可能なような大規模計算を実行可能とするために,今年度からは 従来の「一般利用」枠に加えて試験的に「特別利用」枠を設け,巨大計算のための環境整備を行ってきた。ここでの 成果を踏まえて次年度からは「特別利用」枠を本格的に運用し,センターの全 C PU 性能の約半分を上限として,計算 分子科学分野において世界のピークとなる巨大計算の場を提供していく予定である。
5-3-2 計算科学研究センター将来構想
「計算科学研究センター」を廻る環境は大きく変化しようとしている。そのひとつは2004年度に始まる法人化および それにともなう分子科学研究所,基礎生物学研究所および生理学研究所の「自然科学研究機構」への再編成である。他 のひとつは本年度の補正予算で認められた「ナノグリッド計算」研究プロジェクトの発足である。これらのふたつの 変化はこれまでの計算科学研究センターの位置付けや運営そのものに甚大な影響を及ぼすため,この点について述べ ておきたい。
(A ) 「自然科学研究機構」の発足と計算科学研究センター
本岡崎国立共同研究機構の3研究所は2004年度を期して国立天文台および核融合科学研究所とともに新たに「自然 科学研究機構」として再出発する。この再出発に際して岡崎機構の4つの共通施設(統合バイオサイエンスセンター, 計算科学研究センター,動物実験センター,アイソトープ実験センター)をどのように位置付けるかということが大 きな課題となっている。未だ,最終的な結論にいたってはいないが,現段階では,「これらの4つのセンターを『岡崎 共通施設』として位置付け,それぞれのセンターの管理,運営(予算,人事を含む)についてはそれらのセンターが もともと所属していた研究所が全面的な責任を負う」という線でまとまりつつある。法人化後の計算科学研究センター の将来計画についても分子科学研究所の責任において作成することになっており,下記のような基本的な精神でまと めつつある。
[将来計画]
計算科学研究センターは,分子科学分野における計算科学の拠点として分野に先導的な研究を実施するとともに,計 算機資源を分子科学に関わる全国の共同利用研究に供し,計算分子科学の飛躍的な進展を目指す。同時に,分子科学 のひとつの応用として,生物科学やナノ科学分野への新たな展開を図る。
これらの目標を実現するため,理論研究系との連携の下に,量子化学や分子シミュレーションなどに関わる計算分
子科学の新しい方法論を構築し,また大規模計算を実行することにより,これまでは不可能であった分子や分子集団 系の複雑なふるまいの解明を目指す。一方で,分子科学,および分子科学と他分野との境界領域における計算ニーズ に応えるために,ハードウェア,ソフトウェア,スタッフの充実を図る。
[共同利用研究の内容]
主として電子状態理論,化学反応動力学理論,分子シミュレーション,統計力学理論等に基づいた計算科学的手法 を用いて,分子の電子状態と構造,化学反応経路や反応メカニズムの解明,そして凝集系における分子集合体の構造 や動力学など,分子科学に関わる世界トップレベルでの理論的研究を行う。一方で,これら分子科学研究を基盤に持 ちながら,生物分子科学,ナノ分子科学をはじめとして,分子科学と他分野との境界領域における計算科学研究を展 開する。
[共同利用研究を進める場合の改善内容]
従来は,広く分子科学者の研究需要に応えるために中規模程度までの計算を主な研究対象としていたが,これに加 えて世界をリードする先端的な研究を実施するために,全 C PU 能力の半分程度の資源を集約して,厳選された少数の 研究者が一般の計算機センターでは不可能な大規模計算を実行できる環境を整える。一方で,計算分子科学の共同利 用研究が円滑に推進できるよう,これまで不充分であった当該分野の計算科学的手法に関するライブラリーソフトの 整備を進める。
(B ) 「ナノグリッド計算」研究プロジェクト
2003年度より「ナノグリッド」と名付けた研究プロジェクトが計算科学研究センターを中心に発足する運びとなっ た。このプロジェクトは我が国にグリッド計算環境を整備することを主眼として進行している国家プロジェクト「超 高速コンピュータ網形成プロジェクト(NA R E GI)」の分野別研究開発拠点として「グリッド計算環境の有効性を実証 する研究」の推進を目的に5年間の予定で行われる。
昨年,計算科学研究センターは我が国における物質系5研究所の共同提案として「ナノ計算科学」プロジェクトに 関する概算要求を提出していた。(提案の主旨等については2001年度「分子研リポート」を参照のこと。)このプロジェ クト自身は採択されなかったが,これと同様の主旨をもつ上記のプロジェクトが,今回,NA R E GI プロジェクトの一 環として補正予算の形で採択されたものである。
本プロジェクトはグリッド計算環境下で以下に示された6つの課題に関する研究を遂行し,それらの研究成果を通 じてグリッド計算環境の有効性を実証すると同時に,ナノサイエンス分野における統合シミュレーションシステムを 構築し,大学や産業界の研究者に広く公開することを目指している。6つのグループの研究課題と担当研究機関は以 下のとおりである。(これらの研究機関の他に,高エネ機構および京大・化研がグループメンバーとして共同研究を行 うことになっている。)
1) 機能性ナノ分子(分子研) 2) ナノ分子集合体(分子研) 3) ナノ電子系(東北大・金研) 4) ナノ磁性(東大・物性研) 5) ナノ複合設計(産総研)
6) ナノ設計実証(産業界から公募)